あなたはどうやって操られる?報酬系を利用した戦略にハマらないための重要知識

世の中の娯楽や広告は、人間の脳の仕組みをうまく利用したマーケティング戦略を採用しています。あなたは知らず知らずのうちに操られているかもしれません。

それらに対する知識を得ることによって、自分にとって本当の報酬をもらいそこねずに済むのです。

人は快楽の「予感」によって突き動かされる

人は、快楽そのものではなく、快楽の「予感」によって行動に駆り立てられます。

ラット(実験動物化されたネズミ)を使った実験で、ラットの脳のある部分に電気が流れるようにすると、ラットはひたすらレバーを押して自分の脳に電気刺激を与え続けます。レバーに行くまでに電流の通った網を設置して苦痛を与えるようにしても、ラットは足が火傷で真っ黒になり動けなくなるまで、レバーを引いて脳に電気を流そうとすることをやめなかったそうです。

これを発見した科学者のジェームズ・オールズとピーター・ミルナーは、ラットが快楽を得ているからこそ、動けなくなるまでレバーを引き続けるのだと考えました。

しかし後に、電気刺激が流れた脳の領域は、快楽を与える部分ではなく、「もう少しで快楽が得られそうという予感」を与えるところだったことがわかりました。

そこは、現在では神経科学者が「報酬系(報酬システム)」と呼んでいる部分です。

報酬系は、脳のなかでも最も原始的なモチベーションのシステムで、行動と消費を促進するために発展しました。

脳は報酬が手に入りそうだと認識すると、「ドーパミン」という神経伝達物質を出し、何がなんでも欲しいものを手に入れようとするようわたしたちを駆り立てます。

しかし、ドーパミンが放出されることによって、満足したり喜びを感じたりするわけではありません。

脳のドーパミン系を完全に破壊されたラットも、砂糖を与えられれば大喜びします。しかし、ごほうび欲しさに行動することはなくなります。砂糖で満足はするけど、それをもらう前から欲しがりはしなくなるのです。

報酬系は行動に駆り立てるための仕組みであり、幸福感をもたらすものではありません。

世の中のマーケティング戦略は報酬系を利用する

ドーパミンの作用は、幸福を逃さないためのものです。

脳が報酬を手に入れそこねないよう働きかけ、この機能によってわたしたちは、食料を見つけそこねて餓死することもなく、パートナーを誘惑するのを面倒くさがって子孫を残せなくなることもなかったのです。

脂肪分や糖分の高い食べ物、性的なものを連想させるアイコン、目新しいものや変化に富んだものを見ると、ドーパミンが放出されます。自分にとって必要なものを逃さないようにするためです。

このような報酬システムは生存や生殖のための重要な仕組みですが、ドーパミンが急増すると目先の快楽がやたらと魅力的に見えて、長期的にどのような影響が表れるかを考えられなくなってしまうという欠点もあります。

例えば、「ある程度のお金が確実にもらえる」よりも、「大金をもらえる可能性」のほうがドーパミンが多く放出されて興奮します。そのため、期待値が低いにもかかわらず人は「宝くじ」を買ってしまうのです。

現在は、このドーパミンを逆手にとって消費者を操るマーケティング戦略が当たり前のように行われています。巷にあふれる広告などを冷静に観察してみると、それが人間の報酬系に訴えかけるように作られていることに気づくと思います。

人間は「お得」「セール中」「残りわずか」などの広告に夢中になってしまいます。

かつて生存に必要だった仕組みが、現在は商品を買わせ続けるように利用されているのです。

このご時世、ドーパミンに忠実にしたがって行動すれば、不自然に体重が増し、成人向けサイトに膨大な時間を費やし、自分を幸福にするわけでもない商品をたくさん買いこむ生活を余儀なくされるでしょう。

ドーパミンを利用した娯楽の危険性

デジタルゲームやSNSは、ドーパミンをうまく利用して、ユーザーがどんどんハマっていくようデザインされているものが多いです。

そのような娯楽は現代が生んだ一つの文化ですが、肉体から離れた記号的なものが脳の報酬システムと結びつくことの恐ろしさを認識しておく必要があるでしょう。

同じドーパミンを利用した誘導でも、美味しそうな画像や匂いにつられてご飯を食べれば幸せになります。満腹になった後は食べ物の期待につられることはなくなるでしょう。あったとしても限度があります。

一方でデジタルな報酬は、その報酬を受け取ることが次の報酬を期待させる仕組みになっていることがままあります。
ゲームなどのデジタルな世界では、いくら食べても満腹にならず、美味しそうな匂いにつられてさまよい続けるようなことが起こりうるのです。

ゲームに熱中することで、アンフェタミン(覚せい剤)を注射したのと同じくらいドーパミンが増加する場合もあるそうです。

何日も眠らずにひたすらゲームをプレイし続けて亡くなった人のニュースがときたま報道されますが、電気刺激のためにレバーを引き続けるラットと同じことが起こっているのです。

  • 勉強やスポーツなどは続けられないけれど、ゲームなら何時間でも熱中できる
  • 一日中ゲームで遊んでいたが、終わった後に時間を無駄にした後悔に襲われた

という経験をしたことはありませんか?

ドーパミンが放出されているときに楽しいと感じることもありますが、それは報酬へと駆り立てるための仕組みであり、必ずしも幸福を与えてくれるわけではないことに注意が必要です。

ゲームやSNSなどのデジタルな娯楽は、人を夢中にさせる上で一級のエンターテイメントであり、それゆえに危険な代物でもあるのです。

ドーパミンを良い方向に利用することもできる

報酬系を利用する戦略は、消費者に無駄なものを買わせるだけでなく、有用な目的に使うことも可能です。

フロリダ州のある病院のMRI部門では、ココナッツビーチと海の香りを待合室に漂わせることによって、検査に怖気づいて土壇場でキャンセルする人の数が減ったといいます。報酬の予感を利用して、気が進まないけれどやらなければならないことをやる気にさせることができるのです。

必要だけど退屈な作業を、ドーパミンをうまく利用することで乗り越えやすくなります。

ゲームで培われたハマらせる手法を、教育や仕事などにプラスになるよう利用する「ゲーミフィケーション」という取り組みも注目されています。

脳の報酬システムを良い方向にうまく利用していく仕組みは、これからますます発展していくと期待されています。

ドーパミンとストレスの組み合わせに注意!

今まで見てきたように、ドーパミンには良い面も悪い面もあります。

悪い面に注意し、人生に意義を与えてくれる本当の報酬と、分別をなくして依存症になってしまう偽物の報酬とを、きちんと区別する必要があるでしょう。

報酬系の役割はわたしたちに幸せを「追い求めさせる」ことであって、わたしたちを幸せにすることではないのです。

例えば、ダイエットをしている人がドーパミンに突き動かされて過食をしてしまった場合、幸福感を得るどころか、後悔によって不幸になってしまうでしょう。欲望を満たしたからといって、それが自分にとってプラスになるとは限りません。

特に注意すべきなのは「ドーパミンとストレスの組み合わせ」です。ストレスが溜まっているときにドーパミンが放出されることによって、自暴自棄な行動をとりやすくなることがわかっています。

食べたり飲んだり、買い物をしたり、ネットサーフィンやゲームをしたりといった、ドーパミンが大量に放出されるようなことが息抜きになると多くの人が思い込んでいます。しかし、実はこの手のものはストレス解消法としては良くないのです。

ドーパミンが多く出るからといって、必ずしも期待通りに楽しい気分になれるわけではなく、息抜きのつもりでしたことが逆に害になることはよくあります。過食によって自己嫌悪に陥ったり体調を崩したり、ゲームをつい長く遊びすぎて計画が破綻したりしてしまうのです。

たしかにドーパミンは楽しさをもたらしてくれるかもしれませんが、後から振り返ったときに、それが良いことだったと思える保証はありません。

ストレスはわたしたちを間違った方向に進ませ、思慮分別を失わせ、本能のままに動かそうとするので、現代のドーパミンを利用するような娯楽や広告とは相性が悪いのです。しかもわたしたちは、ドーパミンを放出するようなものこそがストレス解消のためになるという危うい考え方をしてしまいがちです。

お金の心配をしているストレスを紛らわせるために買い物をしてしまうということすら起こります。ストレスとドーパミンが組み合わさることによって判断力が著しく低下し、このような明らかに矛盾した行動をしてしまうのです。

本当に効果のあるストレス解消法

本当に効果のあるストレス解消法は、ドーパミンを放出して報酬を期待させるものではなく、セロトニンやGABA(γアミノ酪酸)などの気分を高揚させる脳内化学物質や、オキシトシンなどの気分をよくするホルモンを活性化させるものです。

これらはドーパミンが放出されたときのような分かりやすい興奮がないので、気分がよくなったとはっきり気づかないことが多いのですが、脳のストレス反応をシャットダウンし、体内のストレスホルモンを減らして治癒反応やリラクゼーション反応を起こします。

米国心理学会は、効果的なストレス解消法として

  • エクササイズやスポーツをする
  • 礼拝に出席する
  • 読書や音楽を楽しむ
  • 家族や友だちとすごす
  • マッサージを受ける
  • 外へ出て散歩する
  • 瞑想やヨガを行う
  • クリエイティブな趣味の時間をすごす

などの例を挙げています。

逆に、ストレス解消法としては効果の低いものとして

  • ギャンブル
  • タバコ
  • お酒
  • やけ食い
  • テレビゲーム
  • インターネット
  • テレビや映画を2時間以上観る

を挙げています。

本当の解決策であるはずの「効果的な息抜き方法」を選べなくなってしまいがちなところに、ストレスの恐ろしさがあります。

ドーパミンを露骨に利用した娯楽は、ストレス解消には向いていないのですが、ストレスが正常な判断を狂わせるがゆえに、そのようなものにハマってしまいやすくなるという構造があるのです。

だからこそ、わたしたちはストレスが溜まっているときに限って

  • ガチャ(ゲームの仕組み)に大金を注ぎ込んでしまう
  • 大負けするまでパチンコをやってしまう
  • 高カロリーのお菓子をやけ食いしてしまう
  • TwitterなどのSNSを延々とスクロールしてしまう

といった解決策からほど遠いことをしばしばやってしまうのです。

ドーパミンを利用する広告や娯楽から逃れることは文明から離れでもしない限り不可能ですが、このような仕組みを理解した上で、うまく付き合っていく必要があるのです。

まとめ

  • 人は快楽ではなく「快楽の予感」によって駆り立てられる
  • 報酬系の仕組みを逆手にとった広告や娯楽が世にあふれている
  • ドーパミンの働きには良い面も悪い面もある
  • ストレスとドーパミンが組み合わさったときは特に注意が必要

(参考:ジェイン・マクゴニガル『スタンフォードの自分を変える教室』第5章、第6章)

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