「意志の力」は感染する!自制心が環境に左右される理由とその対処法

自制心、自分をコントロールする「意志の力」は、自分自身の内側にあるもののように思えますが、わたしたちは自分で思っているよりもずっと他人の影響を受けています。

他人の自制心、考え方、生活習慣などは、ウイルスのように「感染」するのです。

だからこそ、目標達成にとって「良い環境」というのはとても重要なのです。

今回は、良い環境を求める必要がある科学的根拠と、もしそれが現実的に難しい場合の対処法を解説していきます。

生活習慣が「感染」する?

わたしたちは、自分は誰の影響も受けていないと思いがちで、しばしば自立した意志を持っていることに誇りを感じているのですが、実は無意識のうちに誰かに大きく影響されています。

生活習慣など自己コントロールの問題は、まるでウイルスに「感染」するかのように、周囲の人の影響をとても強く受けることがわかっています。

科学者であるニコラス・クリスタキスとジェームズ・フォーラーは、マサチューセッツ州フラミンガムの住人1万2000人以上の32年に渡るデータを調査し、「肥満」が家族や友人の間で「感染」していたことを発見しました。

ある人の友人が肥満になった場合、その人が将来肥満になるリスクは171%増加します。姉妹が肥満になった場合は67%、兄弟が肥満になった場合は45%増加です。

親しい人が肥満になると、自分も肥満になりやすいのです。

肥満のみならず、酒量、禁煙、睡眠不足、憂鬱、怠惰、あるいは学習や勤勉や勇敢など、さまざまな習慣がウイルスのように「感染」します。

「ミラーニューロン」が無意識に他人の行動を模倣する

人は、「他人の欲求」を自分のもののように感じてしまいます。脳が他人と共生していくための機能を備えているからです。

「ミラーニューロン」という言葉を聞いたことはありませんか?

ミラーニューロンという特殊な細胞は、他の人が考えていることや感じていること、行っていることを把握するために存在します。ミラーニューロンのおかげで、わたしたちは自分以外の人の様々な行動を理解することができるのです。

例えば、誰かが醤油をとろうとしたのを察知すると、それをとってあげようと身体がとっさに反応します。ミラーニューロンによって、わたしたちは無意識に他人の行動や意図を模倣しているのです。

さまざまな状況において、わたしたちは近くの人のふるまいをいつのまにか真似しています。長く一緒にいるとお互いの口調や仕草が似てくるのです。

相手を模倣するミラーニューロンの働きは、他者と共生するために必要なものであると同時に、自己コントロールに大きな影響を与えます。

生活習慣が「感染」したり、いつのまにか自分が相手と同じ目標を抱いてしまうのはよくあることで、心理学者はこれを「目標感染」と呼んでいます。

悪い目標が「感染」する場合も、良い目標が「感染」する場合も、両方あります。

わたしたちはしばしば他人といることで自制心が低下してしまいます。みんなと一緒にいることで不品行をしてしまったり、食べすぎたり、買いすぎたり、遊びすぎたりしてしまいます。誰かがルールを破るのを見たら自分も破りたくなるし、ギャンブルで大勝ちしている人を見ると賭け金を釣り上げてしまいやすくなります。

一方で、誰かと一緒にいることで、一人のときよりも自己コントロールが向上することもあります。勤勉な人たちと一緒に勉強をすれば気が散って別のことをしにくくなります。スリムで魅力的な人たちと行動を共にすると自分も節制できたり、健康的な人たちと一緒にいると明るく心が豊かでいられます。

目標達成に近づくためには、「同じ目標を本気で目指している人たち」や「あなたができるようになりたいと思っていることを習慣にしている人たち」に属するのがいいでしょう。

好きな人の目標が感染し、嫌いな人と同じことはしたくない

「目標感染」は、親しい間柄ほど起こりやすく、嫌っている人に対しては起こりにくくなります。

愛情や尊敬を抱いている人のことを考えるとき、脳はその人たちを自分と同じものとみなしやすいのです。わたしたちが「自分」と思っているものには、自分が大事に思っている人も含まれるということです。

逆に、「自分たちとは違う!」と嫌悪感を抱いている人に対しては、免疫システムが働くかのように、「目標感染」は起こりにくくなります。

人間がいかに社会的な生き物かを裏付けるエピソードがあります。

スタンフォード大学では、学生に大量の飲酒を思いとどまらせようとするチラシを2種類用意しました。

一方は理屈で攻めるタイプで、大量に飲酒することのデメリットをデータで並べ立てたものです。

もう一方のチラシには、酒をひとりで飲んでいる大学院生が描かれていて、「スタンフォードの院生は酒飲みが多い……そのほとんどはろくでなし。酒を飲むなら慎重に……。こんな野郎とまちがえられたら最悪」という感情に訴えかけるものです。

結果は、理屈で攻めるチラシが貼られた寮と比べて、ろくでなし院生が貼られた寮のほうが、50%も飲酒量が下回ったそうです。

理屈やエビデンスの裏付けがあるものよりも、「こいつみたいになりたくない!」という感情のほうが効果的に働きます。スタンフォードの学生ですらそうなのです。

「この人みたいになりたい!」あるいは「この人みたいになりたくない!」という感情は、理性的な判断よりも強く、わたしたちの自己コントロール能力に大きな影響を与えます。

環境を変えられない場合にはどうすればいいのか

目標に向かって努力するのが当たり前の環境にいれば、「意志の力」が強くなります。

自分を甘やかすことが当たり前の環境にいれば、「意志の力」は弱くなります。

目標を達成しようとするうえで、「良い環境を求めることはとても重要」なのです。

難関大学に入りたければ、勉強をするのが当たり前の環境である進学校に入ったほうが、少なくとも自己コントロールはぐっと楽になります。学習塾やフィットネスクラブなどのサービスは、自分と同じ目標の人が集まっている場というだけでも価値があるのです。

自分の目標にとって有利な環境を求めることは重要ですが、一方で、誰もが恵まれた環境にいられるわけではありません。自己コントロールにとって不利な場所から、何かを目指したいという人もいるでしょう。

他人の自制心の低さが感染しないように、免疫システムを強化することもできます。自分にとって大事な目標を強く意識し、誘惑がありそうなところをあらかじめ想定しておけば、他人の自己コントロールにつられてしまうことはなくなります。

しかし、不利な環境から抜け出そうとする努力には副作用もあります。親しい人に対する軽蔑につながっていく危険性があるのです。「こいつらと自分は違う!」「ここから抜け出してやる!」と思うことで「感染」に対する免疫が高まりますが、そのことで近くにいる人を嫌いになってしまいます。しばしば社会的に成功した人に、地元を低く見たり周囲を見下す傾向があるのはそのためです。

もっと良い選択肢は、「自分が目標とする人に影響を受けること」です。

近くにいる人でなくても、遠くにいる親しみを感じる人からも自己コントロールは「感染」します。自分が目指す人、自分が憧れている人を思い浮かべることで、自制心は高まるのです。

実力のあるスポーツ選手や、綺麗なモデルやアイドルは、わたしたちが目標に向かって努力する上で重要な役割を果たしていると言ってもいいでしょう。遠くにいる人に憧れ、その人の努力を思い浮かべることで、自分の「意志の力」が強くなるのです。

まとめ

  • 人は無意識に親しい人と同じふるまいをしてしまう
  • 他人の生活習慣や自己コントロールは自分にも影響を与える
  • 自分のやりたいことが当たり前に行われている環境が理想
  • 環境に恵まれなくとも、遠くの目標とする人を思い浮かべることで「意志の力」が強くなる

(参考:ケリー・マクゴニガル『スタンフォードの自分を変える教室』第8章)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする