我慢しようと考えるほど我慢できなくなる?思考を抑圧する危険性

実は人間には、「考えてはいけないと思うほど頭から離れなくなる」「やってはいけないと考えていることに限ってやってしまう」という性質があります。

これは何かを我慢しなければならない人にとって脅威となります。

今回は、思考を抑圧することの危険性を指摘するとともに、自分に禁止しなければならないものがあるときに有効な方法を紹介します。

考えはいけないと思うほどかえって頭から離れなくなる

ロシアの小説家レフ・トルストイは、幼い頃に、「シロクマのことを考えなくなるまで部屋の隅に座っていろ」と兄に命じられました。しかしそう言われることによってますます、シロクマのことがどうしても頭から離れなくなってしまったそうです。

この話を受けて心理学者のダニエル・ウェグナーは、精神コントロールの実験として、参加者に「何を考えてもいいけどシロクマのことだけは考えないように」と指示をだします。

普段からシロクマのことばかり考えている人はまれでしょう。いつもわたしたちは当たり前のようにシロクマのことを考えていません。しかし、考えてはいけないと意識しだしたとたん、そのことを考えずにはいられなくなってしまうのです。

考えないようにするほど逆効果で、その考えを抑えこもうとする以前よりも、かえってそのことばかり考えてしまうようになります。

ウェグナーはこれを「皮肉なリバウンド効果」と呼んでいます。

炭水化物を食べてはいけないと思うほどパンや麺のことが頭に浮かんできたり、絶対に眠らなくちゃ思うほど目が冴えてきたり、自己嫌悪を頭から追い払おうとするほどますます自尊心が傷つくような考え方が浮かんできたりします。

ウェグナーの研究によると、思いつくかぎりのあらゆる本能について、それを抑制しようとした場合には皮肉な効果が表れる証拠を見つけたそうです。

「皮肉なリバウンド効果」は、「頭のなかで考えないようにしていることについて話してもよい」と許可されることで解決します。考えてもよいと思ったことは、あまり考えなくなるのです。

このような、「コントロールしなければコントロールできる」というジレンマが人間の中に存在します。

思考の抑圧は長期的には逆効果

「抑圧された思考は、頭に浮かんでくるだけではありません。人は「考えるな」と言われたことを「実行」してしまいます。

心理学者のジェームズ・アースキンは、ウェグナーの実験に興味をかきたてられ、ダイエットの失敗、タバコ、酒、ギャンブルなどの自己破壊的な「行動」の裏には「皮肉なリバウンド効果」のプロセスが潜んでいるのではないかと考えました。

そして、みんなが大好きな嗜好品であるチョコレートを使った実験を行います。

被験者たちはチョコレートの試食テストという体で呼ばれました。

アースキンは、一部の女性グループに対して「チョコレートについて思っていることを何でも自由に口に出してください」と指示しました。

一方で別の女性グループに対しては「チョコレートのことはいっさい考えないでください」と指示しました。

最初のうちは、思考の抑圧には効果がありました。チョコレートのことを考えないようにした女性は、実際にチョコレートのことについてあまり考えずに済みました。

しかし問題はその後、「チョコレートはいくつ食べても構いません」という試食テストが行われたときです。

なんと、チョコレートのことを考えないようにしていた女性グループは、他の女性の2倍近くもチョコレートを食べてしまいました。頭の中でチョコレートを抑圧してしまったことで、実際のチョコレートに対する欲求が膨れ上がったのです。

アースキンをはじめとする多くの研究者が指摘していますが、例えば「太りそうな食べ物を禁止すること」は、ダイエットにおいて非常に危険な、失敗するリスクが激増する方法です。

このような「禁止」は、みんなが効果的だと信じきってやっていますが、長期的には逆効果です。ある食べ物を抑圧すると、そのことでますます食べてくなってしまい、どうしても我慢できなくなるからです。

しかし、なぜ多くの人が、悪い方法であるにもかかわらずそれをやってしまうのでしょうか?

それは、短期的には効果があるからです。禁止や抑圧は、少なくとも最初のうちはうまくいっているように感じられるのです。

ある考えを頭から一時的に追い払うことは可能なので、そういう戦略が基本的に正しいのではないかと勘違いしてしまいます。そして結局のところ思考や行動をうまくコントロールできなかったという結果がわかると、わたしたちは「抑圧が足りなかったからだ」という結論を出してしまいがちで、抑圧そのものがダメなのだとはなかなか思い至りません。

よって、ますます思考を抑圧し、自分はダメ人間だと思いながらも、同じことを繰り返してしまうのです。

これはダイエットのみならず、さまざまなことに当てはまります。

思考の抑圧は自己コントロールにとって危険なことであり、何かを強く抑圧しようとすると、ほとんどの場合で長期的には失敗してしまうのです。

思考を禁止せずに行動を禁止する

考えや欲求を無理に頭から追い払ってはいけないのだとしたら、わたしたちはいったいどうすればいいのでしょうか?

実は、「思考」を抑えつけず「行動」だけ禁止するというやり方に効果があるそうです。

ある実験で、チョコレートが入った透明な箱を100名の学生に配布し、48時間持ち歩くように指示しました。

一部の学生グループには、チョコレートを食べたいと思ったら自らを戒めなさいと指示しました。思考を抑圧して我慢するやり方です。

もう一方の学生グループには、「皮肉なリバウンド効果」の仕組みについて説明した後、チョコレートについて思ったことや感じたことをすべて受け入れるように指示しました。だからと言ってチョコを食べていいわけではありません。思考を抑圧せず、行動だけ禁止するやり方です。

後者の戦略をとった学生のほうが、チョコを持ち歩くことにストレスを感じず、誰ひとりとしてつまみ食いをしなかったそうです。

わたしたちは何かを我慢しようとするときに、その根本を絶とう、一切考えないようにしよう、という形の努力をしがちです。

しかし「考えることを禁止する」のは不毛な戦略で、短期的には効果的に感じるものの、長期的には抑圧したものがますます大きくなって返ってくるのです。

今まで見てきたように、「我慢したい対象について考えてもいい」と思っているほうが、実際の行動は我慢しやすいのです。

ワシントン大学の研究者セアラ・ボーウェンは、「衝動というものは、こちらがそれに負けようと負けまいといずれ去っていく」と言います。彼は禁煙の指導をするとき、「タバコを吸いたい気持ちをじっと観察する」ように指示しました。

抑えつけようとせずに、その衝動をじっと観察してみようとする意識は、タバコやスナック、ネガティブな考え、娯楽など、何かを我慢するときに効果的な方法です。

「○○しない」ではなく「○○する」

今までの話の応用ですが、何かを禁止しなければならないときは、「○○しない」ではなく「○○する」という目標の立て方をするのが有効です。

悪い習慣を「やめよう」とするよりも、何か新しい健康的な習慣を「やってみよう」とするほうが、結果的に悪い習慣をやめやすくなります。

例えば、「チョコレートは太るからナッツやフルーツで我慢しないといけない」ではなく、「ナッツやフルーツを食べる習慣で健康的になるぞ!」と思ったほうが、実質的にまったく同じ目標を達成しようとしているにもかかわらず、成功しやすいのです。

「遅刻しない!」よりも「5分前に職場に着く!」
「夜更かししない!」よりも「早寝早起きする!」

など、「○○する」という目的のほうが成果を上げやすいことがわかっています。些細なことですが、何かを我慢しなければらないときに使えるテクニックです。

まとめ

  • 考えてはいけないと思うほど、そのことが頭から離れなくなる
  • 思考の抑圧は、短期的には成功するように思えても、長期的には失敗しやすい
  • 考えることは禁止せずに、実際の行動だけを禁止するほうが我慢しやすい
  • 「○○しない」ではなく「○○する」という目標の立て方をする

(参考:ケリー・マクゴニガル『スタンフォードの自分を変える教室』第8章)

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