優秀な人材はお金では買えない?報酬とモチベーションの関係

人は素朴に、「お金をもらえればもらえるほど頑張れる!」と考えています。

それは間違っていないのですが、問題は「頑張れる!」ことの内容です。

単純作業やルーチンワークは、お金をたくさんもらえるほど頑張れるのですが、応用力のいるクリエイティブな仕事は、たくさんのお金をもらうと逆にパフォーマンスが低下してしまうことがあります。

今回は「報酬の与えられ方」と「モチベーション」の関係について解説します。

3種類のモチベーション

『モチベーション3.0』の著者であるダニエル・ピンクは、人間のモチベーションを3種類

  • モチベーション1.0
  • モチベーション2.0
  • モチベーション3.0

に分類しています。

<モチベーション1.0>は、食欲、性欲、睡眠欲といった、生存を目的とする原始的な欲求です。

<モチベーション2.0>は、「報酬を求める一方で、罰を避けたい」といった外発的なモチベーションです。

<モチベーション3.0>は、自分がやりたいと思った活動それ自体から満足感を得られる、「好きなことをやっているから楽しい」という内発的なモチベーションです。

アメとムチ(報酬と罰)のような<モチベーション2.0>の仕組みは、秩序を守り、ルーチンワークをきっちりこなす上では役に立ちます。

しかし、応用力が求められるクリエイティブな仕事は、<モチベーション3.0>が必要になります。

そして、<モチベーション3.0>が必要な仕事をやる上で、<モチベーション2.0>のやり方は明確にマイナスの効果をもたらすことが、研究で明らかになっています。

しかし、いまだにビジネスの様々な場面において、<モチベーション2.0>が採用されすぎているとダニエル・ピンクは主張します。

『トム・ソーヤーの冒険』の教訓

「報酬」という、普通に考えればモチベーションを上げるはずのものは、下手に使うと逆にモチベーションを下げることになってしまいます。

アメリカ文学でもっとも読み継がれている作品の一つ、マーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』に出てくるエピーソードです。

主人公のトムは、ポーリーおばさんの家の敷地を囲むフェンスに白ペンキを塗るという、退屈な仕事を命じられます。それをやりたくなかったトムに、良いアイデアがひらめきました。

友達のベンがその場を通りかかったとき、トムは「白ペンキを塗るという仕事ができないなんてかわいそうだ」とベンを馬鹿にしました。「殴りつけるように白ペンキを塗りたくらせてもらえるのは、実はすばらしい特権なんだぜ」と。

興味をひかれたベンが自分にもやらせて欲しいと頼んだとき、トムは断り、ベンから代金としてリンゴをもらうことで、やっとペンキ塗りの仕事をゆずりました。

その後、通りかかった少年たちは次々とトムの策略に引っかかりました。トムに代金を支払って、みんなが嬉しそうにフェンスに白ペンキを塗る仕事をやったのです。

作者のマーク・トウェインは、ここでモチベーションの主要原則を描き出しています。それは、「”仕事”とは、”しなくてはいけない”からすることで、”遊び”とは、”しなくてもいい”のにすること」であるという指摘です。

トムの友達は、トムに頼み込んで報酬を支払うことで、退屈な仕事をワクワクする遊びに感じました。

これとは逆に、報酬をもらうことで、遊びが仕事になってしまう場合もあります。トウェインはこうも述べています。

イギリスには、夏場に四頭立ての乗客用馬車を毎日30キロから50キロも走らせる、裕福な紳士がいる。相当な金がなければ、このような特権は行使できない。けれども、もしそれに対して金が支払われることになれば、それは仕事に変わる。そうなったら紳士たちは馬車を走らせたりはしないだろう。

もともとは遊びだったものですら、報酬を与えられると、それが苦痛を伴うものと感じられて仕事になってしまうのです。

ダニエル・ピンクはこれを「ソーヤー効果」と呼びます。「ソーヤー効果」には二面性があり、遊びを仕事に変える場合もあれば、仕事を遊びに変える場合もあります。

報酬をもらうことでモチベーションが下がる

子供のやる気を対象にした、マーク・レッパー、デイヴィッド・グリーン、リチャード・ニスベットの3人の研究は、モチベーション関連の論文でもっとも引用されるものになりました。

彼らは、幼稚園児を数週間にわたって観察し、自由遊びの時間に絵を描いて過ごす子どもたちに注目しました。

子どもたちを3つのグループに別けます。

  1. 絵を描いたら「賞がもらえることがわかっている」グループ
  2. 絵を描くことで「賞がもらえることを知らない」グループ
  3. 絵を描いても「何ももらえない」グループ

の3つです。

子どもたちを観察し続けた結果、①の「賞がもらえることがわかっている」グループのみ、絵を描く時間が格段に少なくなりました。

子どもたちのやる気を消してしまったのは、「報酬」そのものではありません。子どもたちが見返りを期待していないときには、たとえ報酬を受け取っても、やる気には影響を与えませんでした。

しかし、「○○をしたら○○をあげる」という「交換条件つきの報酬」は、やる気の継続においてとてもネガティブな効果をもたらしました。短期的には報酬をもらおうと頑張るのですが、長期的にはやる気を維持できなくなります。

自発的な行動に対して、「もっとがんばれたら○○をあげる」というやる気の出させかたをすると、それがキッカケで対象を嫌いになってしまうのです。

また、例えば勉強をさせるときなども、「問題集を1ページ終えるごとにお小遣いをあげる」というやり方をすると、その子どもはほぼ確実に、短い間なら熱心に勉強しますが、長い目で見れば勉強そのものへの興味をなくしてしまいます。

このような作用は、「報酬の隠された代償」と行動科学者たちからは呼ばれていて、社会のさまざまな行為に当てはまるそうです。

報酬のせいでクリエイティビティが下がる

問題解決能力を調べる「ロウソク問題」という実験があります。これは1940年代に心理学者のカール・ドゥンカーが考案したもので、固定概念を克服することで解ける問題です。

参加者は、「木製の壁に寄せられたテーブル」につき、「ロウソク」と「画びょう」と「マッチ」をわたされます。

そして、「ロウがテーブルに垂れ落ちないように、ロウソクを壁につけてください」と言われます。

ほとんどの人が5分から10分ほどで解ける問題だそうです。

正解は、「画びょうを入れてあった箱」をロウソク台として使い、「木製の壁」に画びょうでくっつけることです。そこにロウソクを立てれば、ロウがテーブルに落ちません。

参加者は最初、画びょうの箱を単なる入れ物だとしか思っていないのですが、やがてその箱が問題を解決する鍵を握っていることに気づきます。

広い視野と発想力によって解決する問題であり、クリエイティビティを計るために使われます。

そして、「ロウソク問題」の結果とインセンティブの関係が研究されました。

  • インセンティブなし
  • 解いた早さが参加者全体の上位25%なら5ドル、トップだったら20ドルというインセンティブ(インフレを加味すればけっこうな値段)

という、何ももらえないグループと、早く解ければ報酬がもらえるグループとで実験をしたのですが、その結果は多くの人に衝撃を与えました。

なんと、インセンティブを提示されたグループは、何もないグループと比較して、平均してほぼ3分半も「長く」時間がかかりました。

報酬の存在によって視野が狭まり、独創的な解決策を生み出しにくくなってしまったのです。

これと似たような研究や実験は何度も行われており、同じ結果が観測されています。

早く解けたらお金をあげるといったような「交換条件つきの報酬」は、発想力や創造的が求められる課題には効果がないどころか、マイナスの影響があります。これはもはや社会科学においては定説だとダニエル・ピンクは述べています。

単純作業には報酬が有効

「交換条件つきの報酬」は、クリエイティブな作業にとっては悪影響がありますが、一方で単純作業に対しては効果を発揮します。

心理学者のサム・グラックスバーグは、「ロウソク問題」の設定を変えて、「画びょう」の入った箱を最初から画びょうの横に置いておきました。

そうすることで、問題はずっと簡単な「ルーチンワーク的な発想でできるもの」となります。

このような単純な問題になると、インセンティブを提示されたグループのほうが早く問題を解決するようになりました。

応用力や発想力が求められない課題に対しては、「交換条件つきの報酬」が効果を発揮するのです。

報酬とモチベーションの関係

「○○したら○○をあげる」といった「交換条件つきの報酬」は、ルーチンワークには効果的ですが、応用力を求められる仕事にはマイナスの影響があります。

「単純作業をサボらずやらせる」「秩序を守らせる」という目的であれアメとムチでいいのですが、創造的な仕事でパフォーマンスを上げるためには、自発的なやる気を重視しないといけません。

<モチベーション2.0>の「報酬と罰」という枠組みのまま、<モチベーション3.0>が必要なクリエイティブな仕事をやろうとしても、良い効果は上がらないのです。

例えば、「すばらしいポスターを制作したら10%の特別報酬を出そう」といった動機づけのやり方は今でもよくされるものですが、そのせいで作品のクオリティはむしろ下がってしまいやすいのです。

人に何かをやらせる場合のみならず、自分自身にとってもこれは当てはまります。

「このツラい仕事を終えたら自分自身にご褒美をあげよう」という意識でパフォーマンスの高い仕事をするのは難しいのです。その仕事自体にポジティブなものを感じている必要があります。

優秀な人材はお金で買えない?

ダニエル・ピンクは、<モチベーション3.0>において必要なものとして

  • 「自律性」……自分の人生を自ら導きたいという欲求
  • 「熟達」……自分にとって意味のあることを上達させたいという衝動
  • 「目的」……自分の利益を超えたことのために活動したいという思い

を挙げています。

「お金だけ」を提示しても、優秀な人材がやってきて高いパフォーマンスを発揮してくれるわけではないのです。

創造的なことをやりとげたいのであれば、他人に対しても自分自身に対しても

  • 裁量を認めること
  • 成長できる機会をつくること
  • すばらしい目的があること

を重視する必要があります。

ルーチンが決まっている作業は「お金」という単純な報酬で解決しますが、まだ答えのない問題に立ち向かうときは、内発的なモチベーションが不可欠なのです。

20世紀は<モチベーション2.0>が効果的な仕事がほとんどだったのに対して、21世紀は<モチベーション3.0>で行われる仕事が多くなっていくとダニエル・ピンクは主張しています。

新しい問題に直面したときには、「交換条件つきの報酬」が優れた方法ではないことに留意しておくべきでしょう。

まとめ

  • 「報酬」の与えられ方によって、遊びが仕事になる場合もあれば、仕事が遊びになる場合もある
  • 「交換条件つきの報酬」は、ルーチンワークには効果的だが、クリエイティブな仕事には逆効果
  • 難しい課題を解決するときには、内発的なモチベーションが不可欠で、「自律性・熟達・目的」を重視するべき

(参考:ダニエル・ピンク(著)、大前研一(翻訳)『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』)

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