「いい人」は得をするか損をするか?どれくらい人を信用すべきか問題

「いい人」と「嫌なヤツ」とでは、どちらが得をすると思いますか?

この質問の回答は、それぞれの人生観が反映されるでしょう。

ただ、統計を元にした調査や科学的な研究も進んでいるので、今回はそれをもとに話を進めていきます。

「嫌なヤツ」は短期的には強いが長期的は存続できない

「悪は善より強い」ことを実証する数多くの研究結果があります。

スタンダード大学ビジネススクールのジェフリー・フェファーの調査によると、「真面目に働いて正々堂々と競争する」よりも、「上司に好印象を与えようとする」者のほうが、より高い勤務評価を得ているそうです。

フェファーはこう言い切ります。

仕事を順調に維持している者、仕事を失った者の双方を調査した結果、次の教訓が得られた。上司を機嫌よくさせておければ、実際の仕事ぶりはあまり重要ではない。また逆に上司の機嫌を損ねたら、どんな仕事で業績をあげても事態は好転しない

「上司にゴマをする」というのは、成果をあげる上でとても有効な方法ということです。

また、『ハーバード・ビジネスレビュー』誌によると、同調性(人と仲良くつき合っていくことを重んじる性格)が低い人は、同調性が高い人よりも年収が平均して約一万ドル多いそうです。

人に親切にしようとするよりも、蹴落とそうとするタイプのほうが成功しやすいのです。

世の中のさまざまな場面で、「嫌なヤツ」は「いい人」を蹂躙します。

しかし、そのような悪い行いが効果を発揮するのは、「その場限り」や「短期的」な場面においてです。

ミシガン大学の政治学者ロバート・アクセルロッドは

利己的な人は、初めは成功しそうに見える。しかし長い目でみれば、彼らが成功するために必要とする環境そのものを破壊しかねないのだ

と述べます。

「嫌なヤツ」はその場では得をしますが、やがてそのように活躍できる環境自体を破壊してしまい、長期的にはそれほど得をすることができないのです。

真面目に働くよりも上司にゴマをすり、他人を蹴落とそうとするような人が出世できるような会社は、いずれ潰れてしまうでしょう。「嫌なヤツ」ばかりではその環境自体が成り立たなくなるのです。

「いい人」は両極端

ペンシルバニア大学のアダム・グラント教授は

  • ギバー(受けとる以上に、人に与えようとするタイプ)
  • マッチャー(与えることと、受けとることのバランスを取ろうとするタイプ)
  • テイカー(与えるより多くを受けとろうとするタイプ)

で、どのタイプがより成功しやすいのかを解析しました。

すると、技術者、医学生、営業担当者など、さまざまな職種で、「ギバー」の性向を持つ人が最も結果を残せず、成功から遠い傾向にありました。

しかし一方で、最も成績を上げている最優秀の学生、エンジニア、営業担当者などにもまた、「ギバー」の性向が見られました。

「マッチャー」や「テイカー」は平均的で、「ギバー」は最も成功に近い層と、最も成功に遠い層と、両極端に別れるのです。

上位 ギバー
中間 マッチャー、テイカー
下位 ギバー

下位に位置する「ギバー」は、「テイカー」に食い物にされたり、競争しなければならない場において遅れをとりやすく、成果をあげることができません。

問題はなぜ同じ「ギバー」が上位に位置するのかですが、「単に成功者は裕福だから寄付などをする余裕があるだけなのではないか」と疑問に思う人がいるかもしれません。

しかし、社会学者アーサー・ブルックスが慈善事業への寄付と所得の関係を統計学的に調べたところ、寄付する世帯のほうが寄付しない世帯よりも所得が上昇する傾向にあることがわかりました。裕福だから寄付するのではなく、裕福になる前から寄付するタイプの人が裕福になっていくのです。

それでは、成功する「ギバー」と、失敗する「ギバー」の違いはどこにあるのでしょうか?

『適度な信頼』と題された、人を信頼する度合いと所得の関係を調査した研究があります。

被験者は、「他人をどの程度信頼しているか」を10段階評価で答えます。

最も所得が多かったのは「8」と答えた人でした。一方で、「9」以上と答えた人々の所得は、それよりも平均して7%低かったそうです。

他人を信頼している人は成功しやすいのですが、一方で、信頼しすぎる「底抜けのいい人」は成功から遠ざかってしまうのです。

どのように人を信頼するべきか

「囚人のジレンマ」の話を知っている人は多いと思います。

犯罪で捕まった二人の犯人が、別々の部屋で警察に尋問されます。取引をもちかけられ、もう一人にとって不利な証言をすれば釈放してやると言われます。

この場合

  • 二人とも黙秘をつらぬけば、双方に1年の懲役
  • 一方が相手を告発し、もう一方が黙秘すれば、告発したほうが釈放され、黙秘したほうに5年の懲役
  • 二人ともが互いを告発し合えば、双方に3年の懲役

となるとします。

二人が互いに信頼し合っていれば、お互いに一年の刑で済むのでWin-Winとなります。

一方で、相手が黙っているときに自分だけ裏切れば、釈放されて最も得をします。逆に、自分が黙秘して相手から裏切られれば、懲役5年という最も思い刑を受けます。

お互いが告発し合えば、共に三年の刑と、Lose-Loseとなってしまいます。

これが「囚人のジレンマ」です。

「囚人のジレンマ」は一回きりですが、政治学者ロバート・アクセルロッドは、これを実社会に近づけようと、さまざまな戦略を持ったプレイヤーがこの「囚人のジレンマ」形式のゲームを繰り返す実験を行いました。

どのような戦略が最も成功する(利益を得る)のかを調べます。

  • ひたすら相手を信じ続ける
  • どのゲームでも必ず相手を裏切る
  • だいたいにおいて協調的だが、たまにこっそり相手を裏切る

などなど、単純なものから複雑なものまで、さまざまなプログラム(戦略)がプレイヤーとなってゲームが行われました。

驚くべきことに、最も多くの利益を得たのは、最も単純な戦略でした。

最も利益を得た戦略は「しっぺ返し」で

  • 初回は相手を信じる
  • 前回の相手が選んだ選択と同じ選択をする

という、ただそれだけのものです。

「しっぺ返し」戦略は、短期的な戦略としては優秀なものではありませんでしたが、さまざまな相手と長期にわたって取引をする実社会に近い条件では、最も高い利益を獲得しました。

基本的には「いい人」であるので相手とWin-Winの関係を築きやすく、裏切りには裏切りで返すので一方的に搾取されることもありません。また、信頼には信頼で返すので裏切り者の改心にも応じることができます。行動がシンプルで予測しやすいぶん、相手から信頼されやすいのです。

さらにプログラムの種類を増やすなどして再実験しても、やはり「しっぺ返し」戦略が勝利しました。

アクセルロッドは「しっぺ返し」以上の戦略を作ろうと何度も実験し、「しっぺ返し」をさらに寛容にした「寛容なしっぺ返し戦略」がより優勢になることを発見しました。

「寛容なしっぺ返し」戦略は、基本的には「しっぺ返し」なのですが、たまに相手を信じる選択をします。これによって、潜在的な善人と「デス・スパイラル(お互いに裏切り続ける)」に陥ることを防ぎ、裏切られて失敗した以上の利益を得ることになりました。

以上から、アクセルロッドは「成功の法則」として

  1. 相手を妬まない
  2. 自分から先に裏切らない
  3. 協調であれ裏切りであれ、そっくり相手に返す
  4. 策を弄さない

を挙げています。

①の「相手を妬まない」というのは、実社会での関係のほとんどが、片方が損をすれば片方が得をするような「ゼロサムゲーム」ではなく、Win-Winの関係が築けることもある「囚人のジレンマ」に近いものだからです。よって、相手の成功を妬んで邪魔したくなると自らの成功から遠ざかります。

④の「策を弄さない」は、ずる賢く立ち回ったり、複雑で読めない動きをすると、信頼されなくなり、長期的な関係を持ちにくくなるからです。単純でわかりやすいと思われているくらいがWin-Winを築きやすいのかもしれません。

得をする「いい人」になるために

「いい人」は得をするか損をするか?

という問題ですが、「すごく得する」と「すごく損する」の両極端に別れるというのが正解のようです。

「底抜けのいい人」は「テイカー」に搾取されるので、最も成功から遠ざかります。「テイカー」のような振る舞いが栄えれば、その場所自体が衰退していくので、無条件に「いい人」であることは周囲にも良い影響をもたらしません。

普段は「いい人」でありながら、なめた態度や裏切りにはちゃんと仕返しするという態度が、最も成功に近づくようです。

「ギバー」は、同じ「ギバー」や「マッチャー」に囲まれることで、お互いにWin-Winの関係を築いていくことができます。

長期的に良い関係を築ける場所に行くことや、そのような場所を作り上げていこうとすることが成功の秘訣なのです。

まとめ

  • 「嫌なヤツ」は短期的には成功するが長期的にはその環境を破壊する
  • 「いい人」は最も成功するタイプと最も失敗するタイプの両極端になる
  • 無条件に「いい人」は最も損をする
  • 「いい人」でありながら、悪い行いに仕返しできる人が最も得をする

(参考:エリック・バーカー(著)、橘玲(監訳)、竹中てる実(訳)『残酷すぎる成功法則』第2章)

参考リンク:成功する「いい人」と失敗する「いい人」は何が違うのか? 

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