「説明」は戦争をしかけるようなもの!「共感」したほうが成果が出る理由

わたしたちは、仕事や、恋人や家族との人間関係や、SNSなどの、さまざまな場面で「説明」をやってしまいがちです。

事実や根拠を示して、論理的に「説明」すれば、相手は納得してくれるはずだ。納得するべきだ、と現代の教育を受けた者なら誰しもが少なからず思っているのではないでしょうか。

しかし、交渉や話し合いの場において、「説明」はあまりよい結果をもたらさないことが明らかになっています。

「説明する」のは「戦争を仕掛けている」のと同じ?

哲学者で認知科学者のダニエル・デネットによると、人間の脳には進化の過程で「戦争のメタファー」が組み込まれていて、他者との不一致を「戦争」として理解し行動する回路が備わっているといいます。自分と意見の違う者がいると戦いのモードに入るのです。

戦争は、事実や根拠による話し合いではなく、どちらかが征服されるか殺される命懸けの戦いであり、そこに生まれるのは勝者と敗者です。

その戦争と同じような状況だと、脳は「説明」されたときに認識するのです。誰しもが自分のほうが愚かに見えることを好みません。わたしたちは、「説明」に納得して諭された側が「敗者」であると感じてしまいます。

「ただ説明しようとしているだけなのに」と説明する側は思うかもしれません。しかし、説明しようとすることの多くは、ベースに隠された支配欲です。

説明する人は、状況がもっとよくなるからという前提でそれをやっているのですが、言外で「私は正しく、あなたが間違っている理由はこうだ」と、相手に勝利しようとしています。そして、たとえあなたがどれだけ説明をつくそうと、相手の耳に残るのは説明の内容ではなく言外の意味なのです。

神経科学の分野の調査がこのことを裏づけています。

信じていることに対する反証を挙げられているときの脳のMRI画像を調べたところ、脳の論理性を司る部分はシャットダウンし、代わりに攻撃性に関わる部分が活性化しました。脳が議論ではなく戦争だと感じてしまうようです。

「説明」する側に完璧な利があったとしても、そこに「勝ち敗けた(諭した側と諭された側)」の構図があれば、敗けた側はいい思いをせず、お互いに長期的な関係を築きにくくなります。

危機交渉の進歩

世の中には説得して自分の言い分を通さなければならないさまざまな状況がありますが、その内でも最も緊密で過酷なものの一つが、テロリストとの交渉です。

犯人との交渉の場面で、「なんで犯人を撃ってしまわないんだ」と思う人は多いようです。しかしFBIのデータによると、人質籠城事件で警察が突入した場合の死傷率は78%に達しますが、人質交渉をした場合はに平和的解決が95%にのぼります。

1972年のミュンヘンオリンピック、パレスチナの武装組織が、捕まっている仲間の開放を目的に11人のイスラエル人選手を人質にとった「黒い九月事件」は、警察官1人と人質全員が殺されるという最悪の結果で終わりました。

それ以来、「危機交渉」の重要性が広く認識されるようになりました。それまでは、正式な訓練を受けていない担当警察官が犯人を説得していたし、現場に突入することが唯一の解決方法だとされることも多かったのです。

心理学の博士号を持つ異色の刑事ハーベイ・シュロスバーグと、ニューヨーク市警のベテラン刑事フランク・ボルツは、突入もっと良い方法があるはずだと主張していました。彼らは、実力行使こそが唯一の選択肢だと考える者の抵抗に遭いながらも、1973年に起こったイスラム過激派グループの人質立てこもり事件で結果を出しました。終始言葉だけで対応し、誰も傷つかずに事件が終わったのです。

それが高く評価され、FBIは人質交渉プログラムを開始しました。今日、警察の交渉官の約70%はFBIのプログラムで養成されているようです。

さらに、1980年代、交渉のやり方はさらなる転機をとげます。警察は、犯人との話し合いは大きな成果をあげると認識した一方で、ビジネス式の交渉モデルが多くの事件に適用できないことがわかりました。

何より大事なのは「共感」と「友情」です。解決や具体的な交渉ではなく、犯人の感情面に配慮しようとすることが最も成果をあげます。交渉型のアプローチよりも、共感をベースに会話をしたほうが、良い結果が出やすいのです。

現在の交渉人は、危機交渉の最初から最後まで一貫して、受容、思いやり、忍耐に徹しているそうです。

相手の感情に寄り添うことが大事

「共感」「友情」「愛情」など相手に寄り添うことは、「説明」や「交渉型アプローチ」よりもずっと有用な問題解決法です。

人間関係の研究で知られる心理学者ジョン・ゴッドマンは、夫婦間の問題の69%が永続することを発見しました。話し合って問題を解決したように思えても、それは何かしらの遺恨を残し、実は解決したとはいえない場合が多いということです。

「お互いにちゃんと話し合うことが大事」などとよく言われますが、どちらかの理屈が通ってもわだかまりができることは多いです。結婚生活というものは理屈だけでは成り立たないのです。

相手の話に耳を傾け、共感し、それが相手に伝わっていれば、たとえそれが目の前の問題を解決しなかったとしても、結婚生活はうまくいきます。夫婦がお互いの気持ちに寄り添わず、具体的な交渉や要件に重きを置くとき、結婚生活は破綻しやすくなります。

ほとんどの場合、人は説明に納得して行動を変えるのはなく、感情によって行動を変えるのです。

ハーバード大学ビジネススクールのディーパック・マルホトラは、賃金交渉の際には「交渉相手から好かれること」が最も重要だと学生たちに教えています。

「友情」ほど、あらゆる対人関係で実行力のあるモデルはないそうです。

交渉の場では、間違っても相手の問題を自分が解決し、何をするべきかを相手に指示してはいけません。「説明」してしまうことで「戦争のメタファー」に突入し、利害を争い合わなければならないことを相手が意識してしまいます。

現実の多くの問題は、どちらかが損してどちらかが得をするわけでは必ずしもありません。友情関係を築くことで、どちらかの言い分を通す「戦争」に陥らず、協力して双方のパイを増やそうとしていくことができるのです。

仕事や交渉、夫婦関係など、さまざまな場面で、「説明」よりも「共感」のほうが効果をあげます。

ちゃんと「説明」すれば何でも解決するわけではないのです。インターネットなどでたくさん発言している人は特に注意が必要です。

まとめ

  • 人は「説明」されると、たとえ相手の言い分が正しくても敵対モードに入る
  • 理屈で納得させるより、「共感」や「友情」でアプローチしたほうがうまくいく場面は多い

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