「考え方」が人生を左右する?マインドセット効果の重要性

有名な「プラセボ効果(プラシーボ効果)」は、偽物の薬をそれと知らせずに患者に与えると、病気が快方に向かったり治療することを言います。

思い込みの影響はあなどれません。ものごとについて「どう考えるか」によって、そのものごとから受ける影響は変化します。

「どう考えるか」が人間に及ぼす影響は、「マインドセット」という科学の新しい分野としても研究が進んでいます。

これは「考えただけでうまくいく」といった怪しい自己啓発ではなく、科学的なエビデンスのあるものです。

「テレビを観るだけでカロリーが消費できる」と強く思い込んでも体重は減りません。しかし、マインドセットが大きく効果を発揮する状況はたくさんあるのです。

ある場合には「考え方」が結果を左右する

心理学者アリア・クラムは、「考え方」と「健康状態」の影響を研究するため、全米の7つのホテルで客室係の実験参加者を募集しました。

ホテルの客室係の業務は運動量が多く、オフィスワークが1時間あたり約100キロカロリーを消費するのに対して、客室係は1時間あたり300キロカロリーを消費します。しかし、働いている当人たちはそのことを知りません。

とても運動量のある仕事であるにもかかわらず、女性の客室係は、アンケートで「定期的な運動をしていない」「まったく運動をしていない」と回答しました。実際、その人たちのウエスト・ヒップ比、体重、体つきは、たしかに座りっぱなしの生活をしている人と同じようでした。

クラムは7つのホテルのうち4つでプレゼンテーションを行い、客室係の業務が立派な運動になり、この仕事がとても健康的であることを示しました。

また、床に落ちているタオルを拾ったり、荷物が乗ったカートを押したりすることに対しての、行動別カロリー消費量を掲載したポスターを休憩室に貼りつけるなどしました。

残り7つのうち3つのホテルでは、比較のため、客室係の業務が立派な運動であることを伝えず、「健康のために運動がいかに重要か」というプレゼンテーションを行いました。

4週間後、客室係の仕事が運動になることを知った前者の人たちは、体重と体脂肪が減少し、血圧も下がっていました。そして、客室係の仕事を以前よりも好きになっていました。一方で、比較対象だった後者の人たちには変化が見られませんでした。

なんと、「自分は運動している」と思うようになっただけで、体型と健康状態に良い影響があったのです。

ただの思い込みが効果を発揮するということはありません。しかし、「二つの効果が想定される場合(今回のケースでは、運動によって健康状態が表れるか、作業によって体に負担が生じるか)、その人がどう思っているかによって、どちらの効果が表れるか決まる」とクラムは仮説を立てています。

そして、このような作用が最も適用されやすい現象の一つが「ストレス」です。

ストレスは悪いものとは限らない

ほとんどの人がストレスは悪いものだと考えています。しかし、ストレスには良い効果もたくさんあります。人間にとって必要な作用なのです。

ケリー・マクゴニガルは、「ストレス」という言葉のひとつの考え方として

ストレスとは、自分にとって大切なものが脅かされたときに生じるものである

と定義しています。つまり、「ストレス」と「大切なもの」は密接な関係にあり、ストレスを避けようとする生き方は大切なものを掴み損ねるのです。

実際にストレスは、能力を発揮しなければならない状況であることを自分に知らせてくれ、パフォーマンスを向上させ、健康や成長や回復のためのホルモンを分泌してくれます。つまりストレスを感じる作用は、そのような状況を乗り越えるために、身体を強化してくれるのです。

ストレスは悪い影響と良い影響の両方があるのですが、それが長期的にどちら側に転ぶのかは、受けた本人が「ストレスについてどう考えるか」に関わってきます。

1998年に、アメリカで3万人の成人を対象に行われた調査です。

「この1年間でどれくらいのストレスを感じましたか?」
「ストレスは健康に悪いと思いますか?」

の二つの質問が参加者に対して行われました。

8年後の追跡調査では、3万人の参加者のうち誰が亡くなったかを住民情報などによって調べました。

すると、強度のストレスを感じていた人は死亡リスクが43%も高まっていました。しかし一方で、そのリスクが高まっていたのは「ストレスが健康に悪い」と考えていた人たちだけでした。

たとえ強度のストレスを感じていたとしても、ストレスが健康に悪いと思っていなかった人には死亡リスクの上昇が見られないどころか、むしろ「参加者中で最も死亡リスクが低かったのが強いストレスを受けながらもそれを健康に悪いと思っていない人たち」でした。

つまり、「ストレスは健康に悪い」という思い込みが、実際にストレスを健康に悪くするのです。

そして、実はストレスをたくさん感じた人のほうが幸福度が高い傾向にあります。重要な仕事や子育てなど、大きなストレスがかかる仕事は、それ以上に大きな幸福をもたらしてくれるからです。

「ストレスについてどう考えているか?」は、健康や幸福や成功に大きな影響を及ぼすのです。

マインドセット効果

「どう考えるか」によって大きく結果が変わる作用のことは、研究者からは「マインドセット効果」と呼ばれています。

マインドセット効果として客室係やストレスの例を出しましたが、もう一つ「考え方」に大きく左右される例を出すと、「加齢の影響」です。

「年を取ることをどう考えるか」について、年齢を重ねることをポジティブにとらえることは、健康にとても大きな効果があり、寿命が平均で8年も長くなります。

年を取るということについての「考え方」が、その人の健康や寿命に大きく影響を及ぼすのです。

このような「マインドセット効果」は、「プラセボ効果」よりもずっと強力です。

プラセボ効果が短期的にある特定の効果のみをもたらすのに対して、マインドセット効果は、日々の小さな行動全般に影響を与えます。そのため、マインドセット効果の及ぶ範囲は雪だるま式に増大し、ますます威力を増しながら長期的な影響をもたらします。

マインドセットは、「事実としてどうなのか」よりも、「自分はどう考えているか」に大きく左右されます。つまり、わたしたちが「信念」や「価値観」と言っているものに近いのです。

「ストレスは良い影響も悪い影響もある」という二つの事実があるときに、良い影響のほうを自分にもたらそうとするのが「マインドセット」の役割です。

どういう考え方を採用するか

「マインドセット効果」は、そのからくりを知っていても効果があります。

今までの話を理解し、「どう考えるか?」がわたしたちのこれからに大きく影響するということを知った上でなお、ポジティブな考え方を採用することに意味があるのです。

「信じ込む」必要はありません。

例えば、「ストレスには悪い影響がある」「年齢を重ねるほど衰える」という事実を否定する必要はないということです。

良い影響と悪い影響の二つがあると知った上で、「ストレスは困難に立ち向かうための重要な作用だ」「年齢を重ねるほどたくさんのことを知って人生が楽しくなる」という考え方を「採用する」ことで、自分は運動していると考えた客室係が痩せたように、あなたの人生も健康で素晴らしいものになっていきます。

逆に、よくないマインドセットを採用している例としては、例えば「人間の能力や成功は生まれつきで決まる」というものです。

これは事実として必ずしも間違っているとは言えません。しかし、これを自分のマインドセットにしてしまうと、努力して能力を身に着けにくくなり、挫折に弱くなります。

人間の能力が遺伝や才能によってある程度決まっているという事実を否定する必要はありませんが、世の中には不利な状況から大成した人の例がいくらでもあります。

「人は努力しだいで能力を伸ばしていける」という「考え方」を自分に「採用」したほうが、さまざまなことにチャレンジできる人間になれるのです。

これは、最初は「考え方」程度の小さな違いなのですが、時間を重ねるごとに積み重なりあらゆることに波及していきます。「考えるだけ」の差が段々と大きくなり、やがては寿命に8年もの差がつくほどの大きな違いになるのです。

自分が暗黙にどのような「考え方」を採用しているのか意識し、自分の人生にプラスになるようなマインドセットを採用するべきなのです。

まとめ

  • 「思い込み」でなんでも解決するわけではないが、「どう考えるか」で結果が左右する場合が確かにある
  • 自分の人生が良い方向に向かう「考え方(マインドセット)」をあえて「採用」することで、実際に良い方向に向かっていきやすくなる

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