大人になっても脳細胞を増やせるし記憶力を鍛えることができる

脳細胞は増えることがなく、歳を重ねるごとにただ減っていくというのが、かつての脳科学の常識でした。

しかし現在、その常識はくつがえされ、脳細胞は鍛えることによって増えていくことが明らかになりました。

わたしたちは年齢に関係なく、脳を鍛えることができます。

脳も細胞でできている

人の体は数多くの「細胞」によってできていますが、「脳」も例外ではありません。

脳は神聖なものとされ、長らく本格的には解剖されずにきたのですが、イタリアの解剖学者ゴルジとスペインの組織学者カハールの二人が脳の構造を徹底的に調べ上げ、「神経細胞(ニューロン)」という細胞が、脳の複雑な機能を担っていることを突き止めました。

人の頭の中には、約1000億個の「神経細胞(ニューロン)」がぎっしり詰まっています。

他の臓器と違って、脳の細胞である神経細胞は基本的には増殖しません。

脳は記憶をつかさどっています。もし神経細胞が頻繁に増殖して入れ替わってしまうのであれば、わたしたちは記憶を保持しておけなかったかもしれません。そのため、神経細胞は他の細胞とは違い、入れ替わることなくずっと働き続けるのです。

そのため、人は生まれたときにもっとも神経細胞が多く、生きていくうちにだんだん減っていきます。

神経細胞はすぐに死んでしまう

神経細胞はとても繊細で、ちょっとしたことですぐに死んでしまいます。

まず、何もしなくても、一秒に一個ほど、一日に数万個という猛烈な早さで脳の神経細胞は死滅していきます。

頭を軽く叩いただけで脳細胞は数千個減るといいます。頭を強く打つと大幅に減ります。KO負けを何度もくらったボクサーは痴呆の進行が早いことで知られています。

アルコールも神経細胞の死を早めます。お酒の飲み過ぎは脳細胞に悪影響を及ぼすのです。睡眠薬、麻薬、覚醒剤などの薬によっても神経細胞の死が誘発されます。

ただ、深刻に考える必要はありません。神経細胞はどんどん減っていっても問題ないようにできています。必要とされていない神経細胞から選ばれて死んでいき、これは脳にとってもエネルギー消費の無駄をなくす合理的な仕組みなのです。

約1000億個もある神経細胞のうち、人が意識的に活用できる細胞の数は10%に満たないそうです。だから、減っていくことをそれほど気にするべきではないでしょう。よっぽど極端でなければ、頭を強く打つスポーツをしても飲酒をしても問題はありません。

しかし、神経細胞が減っていく脳は、子どもの頃が最も高性能でだんだん劣化していくという認識が根付いています。そのような考え方は、高齢の人が再チャレンジするモチベーションを削いてしまいそうですが、幸いなことに、「脳細胞は増えずに減っていくだけ」というのが事実でないことが現在は明らかになっています。

神経細胞は増殖する

イギリスの認知神経学者エレノア・マグワイアは、sMRIという医療技術を使い、ロンドン市内を走るタクシー運転手16人の脳の構造を調べました。

ロンドン市内は入り組んでいて、一方通行や行き止まりなどの道路、建物、公共施設など、複雑な地図を頭に入れておかなければなりません。優れたタクシードライバーになるためには卓越した記憶力が必要です。

結果、タクシー運転手の脳の「海馬」という部分が一般人よりも大きくなっていることが発見されました。

さらなる調査では、タクシー運転手でもベテランであるほど神経細胞の数も多いことがわかりました。

この実験によって、減る一方だった神経細胞が、実は増えることもあるということがわかりました。そして、脳を使えば使うほどより増えるのです。

タクシー運転手の卓越した記憶力は、業務によってじっくりと脳を鍛え上げた結果でした。

鍛えれば鍛えるほど記憶力がつく

タクシー運転手に限らず、頭脳を使う業種に携わっている人も神経細胞が増えます。

頭を多く使って鍛えれば、神経細胞はこれに応えるように増殖し、記憶力は自然に増大するのです。

さらに、マグワイアが研究対象としたタクシー運転手たちは、青年に達してから運転手を始めた人がほとんどでした。神経細胞は大人になってからでも増殖し、70歳を超えた人でも脳をうまく使えばまだまだ記憶力が向上することがわかっています。

逆に、仕事から離れて頭を使わない生活を続ければ神経細胞は減っていきます。

つまり、「年齢に限らず、鍛えれば記憶力が向上し、鍛えなければ衰える」というシンプルな図式が、神経細胞レベルで明白な事実となったのです。

「脳細胞は増える」という事実は、非常にポジティブな可能性を示唆しています。

減る一方だったと思われていた記憶力は、70歳を超えてもどんどん鍛えることができるし、若い内からずっと伸ばしていくことができるのです。

年齢を重ねたベテランのタクシー運転手のほうが、若手よりも脳が大きかったことがそれを示しています。

「年齢が若くないから脳を鍛えるのは無駄」というのは間違いで、年齢に限らず鍛えればどんどん記憶力は向上するし、逆に鍛えなければ劣化していくものなのです。

まとめ

  • 脳の神経細胞は長らく増殖しないものとされてきたが、海馬などの部分は鍛えることで細胞が増えることが発見された
  • 年齢に関係なく、鍛えさえすれば記憶力は良くなっていく

(池谷裕二『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』第1章)

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