年齢で記憶力は低下するのか?その理由と対処法

「年齢を重ねて前よりも記憶力が落ちた」と感じる人が多いようです。

実は、イメージや実感とは異なり、記憶力が自体は低下しているとは必ずしも言えません。脳の海馬にある神経細胞は増殖するので、年を経ても記憶する能力は増加します。

しかし、子供の頃に得意な記憶のやり方と、大人に向いている記憶のやり方は違うので、大人になっても学生時代の頃のような勉強の仕方をしていると、記憶力の衰えを感じてしまいます。

記憶に関する考え方を捉えなおし、自分に合った勉強法を採用しましょう。

大人は知的興奮を重視すべし

脳科学の研究により、海馬がθ波のリズムに乗ると記憶力が増すことがわかりました。

θ波は、「好奇心」や「探究心」を伴う対象に向き合っているときに発生します。「自分の興味のある対象ほど記憶力が高まる」ということが、脳科学の視点でも明らかになっているということです。

実際に、何事も初体験のときのことはよく覚えているものです。新しいことにチャレンジしたときは、記憶力が高まり、起こったことを忘れにくくなるのです。

つまり、「記憶する上でもっとも効果を発揮する方法は、覚えたい対象に興味を持つこと」です。

年をとって記憶力が落ちたように錯覚してしまう最大の原因はここにあります。年齢を重ねると新しいものへの感動が薄くなる傾向があり、結果的に記憶力が悪くなってしまいます。

刺激の多い環境で生活すると、神経細胞が活発になり始め、記憶力は増強されます。そして、記憶力が増強されることでまたさらに多くのことに興味を持つことができます。積極的に新しいことを学ぶ姿勢を持てば、より好ましいほうへ脳が順応していくのです。

つまり、脳は使えば使うほどさらに使えるようになるということです。実際に新しいことに興味を持って、好奇心や探究心を感じることで、人はどんどん頭が良くなっていきます。

また、人間の記憶の仕組みからして、大人になるほど理解して覚えるのが得意になる一方、意味のない情報を暗記することは苦手になります。

記憶の階層システム

若いときと年を経てからでは、得意な記憶のやり方が違います。それを理解するための準備として、「記憶の階層システム」の知識が必要です。

エピソード記憶 経験や出来事に関連した記憶
短期記憶 一時的に覚えてすぐに忘れる短期的な記憶
意味記憶 意識が介入しない抽象的な記憶
プライミング記憶 無意識に処理を円滑化
手続き記憶 体で覚えた記憶

この「記憶の階層システム」は、下に行くほど生命の維持に不可欠な原始的なものになり、上に行くほど高度な内容のものになります。

エピソード記憶

いつどこで何をしたかという過去の経験や出来事に関連した記憶です。「エピソード記憶」には常に自分の経験が付随しています。

理屈を納得して覚える、というのもエピソード記憶に分類されます。

短期記憶

目の前にある情報をとりあえず覚えると、まずは短期記憶になります。一時的な記憶で、長期的な記憶としては定着しません。

覚えようとする努力を繰り返すことで、短期記憶ではなくなり、エピソード記憶や意味記憶になります。

意味記憶

自分の経験とはあまり関係のない抽象的な知識です。

ワシントンが初代アメリカ大統領であるといった自分の経験が介在しない知識や、英単語の意味などが「意味記憶」です。(単語の意味にしても、ただ覚えただけでなく、自分の経験をもとに言葉のニュアンスを深く理解している場合は「エピソード記憶」となります。)

エピソード記憶と意味記憶の境目は曖昧なようにも考えられ、どんな知識も始めは何らかの状況のもとで脳に蓄えられたはずです。当時の状況に関する記憶が消えたり定まらなかったりすると、エピソード記憶は意味記憶になります。

プライミング記憶

プライミング記憶は「入れ知恵記憶」とも呼ばれ、無意識のうちに解釈や状況判断を迅速にするものです。

例えば、以下の文章を読んでみてください。「ほうれんそう」を食べて強くなるアニメヒーロー「ポパイ」に関する内容です。

ポパイが恋敵のブルートをなぎ倒すさまは我々に心地よい快感を与えてくれる。ポパイがブルートより圧倒的に体格が劣っているため、さらに我々の同情感を誘う。ほうれんそうを食べて怪力になり、それまではまったく歯が立たなかったブルートから逆転勝利を収めるなじみのパターンも見ている者に安心感を与える。さて、ポパイの力の源であるほうれんそうが実際に高い栄養価をもつことは周知の通りであるが、このアニメの影響力は絶大で、当時ポパイを見ていた成長盛りの子供たちが積極的にほうれそんうを食べるようになったということが報告されている。

(引用元:池谷裕二『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』第2章)

なんの変哲もない文章ですが、みなさんはこれを普通に読むことができたでしょうか?

実は、最後の文章は、「ほうれんそう」ではなく「ほうれそんう」になっています。

しかしほとんどの人は、「ほうれそんう」を「ほうれんそう」と認識したでしょうし、気づいても単に間違えたのだな思うでしょう。

わたしたちは、つづりの正しくない単語が紛れていても前後の文脈などから普通に読むことができます。これは「プライミング記憶」によるものです。

ちょっとした勘違いやミスなども「プライミング記憶」によってもたらされるのですが、この記憶を持っていることで、円滑に何かをこなすことができるのです。

手続き記憶

歩いたり走ったり、箸を持ったり文字を書いたりなどは、「手続き記憶」によるものです。

「体で覚える」という言葉がありますが、実際は体が覚えているのではなく、脳が記憶しています。

「手続き記憶」は人間が生存する上でもっとも重要な記憶であり、これがあることで、わたしたちは体を動かしたり日常生活をおくったりすることができるのです。

この「手続き記憶」は、赤ちゃんが最初に習得する記憶であり、「エピソード記憶」や「意味記憶」が抜け落ちてしまった老人も、「手続き記憶」は忘れません。

記憶の発達と大人に得意な記憶法

記憶力は、年齢を経るにしたがって

「手続き記憶」→「プライミング記憶」→「意味記憶」→「短期記憶」→「エピソード記憶」

と発達していくそうです。

「記憶の階層システム」の下にあるものほど、小さい頃に身につきやすく、年をとっても失いにくい傾向があります。

一番下の「手続き記憶」は年と経てから身につけにくい一方でなかなか失われません。一番上の「エピソード」記憶は衰えやすいぶん、後天的な努力で記憶力を伸ばしていくことができます。

「手続き記憶」は小さい頃ほど発達しています。「運動能力」も「手続き記憶」ですが、幼い頃によく体を動かしていた人は、成長した後もスポーツ全般にわたって優れた運動能力を発揮します。

また、若い頃は「意味記憶」が発達しているのですが、「エピソード記憶」はある程度の年齢に達しないと完成されません。つまり若いほうが「暗記」が得意で、年を経たほうが「理解して覚えること」が得意になる傾向があります。

一般に、人がものを覚えるときには、覚え方によって適齢期があります。記憶の適齢期のことを脳科学は「臨界期」と呼んでいます。

たとえば、聴いた音の高さを判断できる「絶対音感」の「臨界期」は三歳から四歳だそうです。また、新しく言語を覚える能力は六歳くらいまでが高いと言われています。小さいほど「意味記憶」を覚えるのが得意なので、一般に家族全員で海外に移住した場合、一番年齢の若い人がもっとも早く外国語を習得できます。(絶対音感を手に入れることや、幼児期の多言語学習が望ましいことなのかは意見が分かれます。)

何も考えずにとにかく覚える「丸暗記」は、子供の頃や学生の頃には有効な戦略ですが、大人になるほど苦手になっていきます。そして、「もう若いころのようには覚えられない」となってしまうのです。

大人は暗記よりも理解が大事

記憶において重要な機能をつかさどる「海馬」の神経細胞の数は、増殖して増えていくことがわかっています。頭をよく使う職業の人は、ベテランほど脳が発達しているのです。

脳の機能は身体機能のようには衰えません。たとえば、一般的にスポーツ選手の全盛期は20代から30代です。しかし、全盛期のクリエイターや大きな仕事を成し遂げる事業家は、50代から60代がピークの人が数多くいます。理解して覚える能力は、どんどん鍛えることができるのです。

「エピソード記憶」が発達してくると、丸暗記よりも、何かに関連した記憶力が上昇します。ものごとは、理解して連合させるほど、それだけ覚えやすくなります。さまざまなことを学んで色んな概念を習得すると、さらに色んなことを学びやすくなるのです。

たとえば、高校生の科学で言うなら、「物理」の科目をしっかり勉強した人は、別の科目である「化学」も学びやすくなります。「新しいことを学習する」という能力が磨かれるからです。

「理解すること」は大人のほうが得意であり、この能力は鍛えれば鍛えるほど磨かれていきます。

丸暗記は覚えた範囲の限られた知識にしか役立ちませんが、理論や理屈を覚えると、それらが根底にあるすべての事象に活用できるし、それぞれの分野は意外なところでつながってもいます。同じ記憶量であっても、理解して覚えたもののほうが高い有用性を発揮するのです。

「年齢のせいで脳機能が低下している」と考えて勉強を放棄したり、丸暗記にずっと頼っていると、本当に記憶力が悪くなってしまいます。知的好奇心を持ち、「理解して覚えること」を意識していれば、新しいことを覚えるたびにどんどん頭がよくなっていくのです。

丸暗記する能力は伸ばしにくいのですが、理解して覚える能力は成長していくので、そこを鍛えようということです。

まとめ

  • 記憶力は知的興奮によって高まるので、興味の持てる対象にチャレンジするべき
  • 大人になると丸暗記は苦手になるが、理解して覚える能力は鍛えるほど高まっていく
  • 勉強する対象の面白さを見いだし、理屈を理解していくとすることで、年を経てもどんどん頭がよくなっていく

(参考:池谷裕二『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』)

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